2021/12/09
土壌汚染・地盤沈下・災害などで被災した物件
災害は、その被害を軽減することはできても、発生の予知や完全な対策は困難です。
また、被害や影響を事前に推し量ることも難しく、私たちはいつ来るとも知れない災害に対して日々備えることで、辛うじて見通しを立てることしかできません。
一口に「災害」と言ってもその内訳はさまざまで、地震や台風といった自然災害はもちろん、身近にあるガソリンスタンドや工場設備跡地等による土壌汚染という人為的な災害も含まれます。
もし、これらの災害を受けて不動産が被災してしまった場合、被災物件の売却にはどのような方法があるでしょうか。具体的に被災の内容を見ながら解説していきます。
1-1 地盤沈下
地盤沈下とは、建造物の基礎を支える地面が何らかの理由で元の高さよりも沈んでしまう現象です。
広域の地盤沈下は、地下水の過剰な揚水等により地層が収縮して発生する場合と、地殻運動等により自然発生する場合があります。
前者のケースは揚水を規制することで地層内の水位を増やし、被害の拡大を抑えることができますが、一度沈下した地盤が回復することはほぼありません。
広域に発生する沈下現象は公害のひとつとされ、国や自治体が対策に取り組んでいます。
ほとんど自然災害のようなものであるため回避することは困難ですが、地盤沈下地域は公開されているので事前に確認することが可能です。
局所的な地盤沈下は、建造物が軟弱地盤の上に建てられていたり、造成地の地盤が不均質であった場合などに発生します。
地盤沈下が発生した際、同じ建物でも場所によって沈下量が違った場合、傾きや埋設管の破断といった深刻な問題が発生します。
「地下に何があるか」が鍵となるため、地盤改良等の対策を行うためには事前の調査が必要となります。
被災物件
1-2 液状化
液状化とは、砂質土がゆるく堆積した地下水位の高い地盤が、地震による振動により液体状になる現象です。
液状化が発生するとその地盤は軟弱地盤となり、地面よりも比重の大きな建造物が埋もれて傾きや倒壊が発生したり、逆に比重の軽い埋設管が浮き上がることで破断が発生します。
建造物の構造自体が耐震性に優れていても、それを支えている地盤が液状化してしまった場合は、被害を避けることができません。
海岸や川の近辺・臨海部の埋立地・かつて川や池沼があった土地などで、液状化は発生しやすくなります。
こちらも地盤沈下の問題と同じく、事前に土地を調査し、液状化対策の地盤改良を行うことで被害を抑えることができます。
1-3 土壌汚染
土壌汚染とは、土壌中に、有害物質が自然環境や人体の健康へ影響を及ぼすほど含まれている状態です。
有害物質は目に見えません。公害に関心が向けられるよりも前、1950年代以前には有害物質の使用に対する規制が行われておらず、過去に工場が建っていた土地には、今も有害物質が残っている可能性があります。
同様に、近年になってから有害と判明した物質を利用していた場合も、結果的に土壌が汚染されていることになります。
また、土壌汚染は工場跡地だけではなく、クリーニング工場・農地・ガソリンスタンドなど、より身近な施設にもその可能性が存在しています。
土壌汚染対策法による調査義務がかかる土地の対象外であっても、地域によっては調査を義務付けられている場合があります。
被災した不動産の売却について
被災した物件を売却するためには、どうすればいいのでしょうか。 まず、地盤に問題のあるケースを見てみましょう。
実は、売主に土地の地盤調査と説明の義務はなく、重要事項説明の対象としても明記されていません。
しかし、地盤は安全性に直接影響するため、買い手側の関心が高い部分でもあります。 売主が地盤の状態を把握していたにもかかわらず説明を行わなかった場合、損害賠償を請求された事例もあり、トラブルを避けるためには状況を明確にした上で売却を行うことが肝要です。
特に、被災し既に地盤沈下・液状化が判明しているケースでは、その旨を瑕疵として説明する必要があります。
被災物件
地盤に問題がある土地に建物を建てたい場合は、地盤改良を行わなくてはなりません。
これは売主の義務ではなく、地盤改良費は買主が負担するのが一般的です。 どのような建物が建築されるか分からない段階では、地盤改良を行うことができないため、建築費の一部という扱いで買主負担とするのが合理的であるためです。
ただし、地盤調査の説明と同じく、地盤改良が必要となることが判明しているのであれば、地盤改良費が買主負担となる旨を明示しなくてはなりません。
2010年1月20日に名古屋高等裁判所で下された判決では、地盤改良の必要性についてあいまいな記述をした売主に対し、費用の全額負担が命じられています。
地盤に問題のある土地の売買は決して違法ではありません。 しかしながら、判明している問題に対する説明が不十分だと、思いも寄らないトラブルを招くことになります。
次に、土壌汚染を見てみましょう。土壌汚染対策法により、有害物質使用特定施設であれば売主に調査の義務が発生します。
また、土壌汚染対策法にかからない場合であっても、各都道府県の条例により調査が義務付けられているケースが存在します。
土壌汚染の対策費用は、原則的に土地の所有者が負担することになりますが、この場合、土壌汚染の原因者へ対策費用の請求を行うことができます。
土壌汚染は瑕疵にあたり、売主には瑕疵担保責任が問われます。
平成14年9月27日の東京地裁判決では、有害物質が環境基準に抵触しない量であっても特別な費用をかけて異物の除去工事を行う必要が生じたために土地の瑕疵と認められ、売主に対して瑕疵担保責任を求める判決が下されています。
目に見えない土壌汚染は、状況があいまいなまま売却を行うと、後々のトラブルに発展してしまいます。
土壌汚染の可能性がある土地を売却する際は、売主が事前に調査を行った上で、土壌汚染の状況についてよく話し合い、売主・買主双方が合意することでトラブルを未然に防ぐことができると言えます。
これらの被災物件は、改良費等を買主が負担するケースが多く見られます。
どうしても売れ辛い場合には、被災対する対策費用分を差し引く形で、価格を抑えて販売することも視野に入れます。
災害はいつ発生するか判りませんが、軽減することは可能です。
過去に被災した物件や、今後被災する可能性を持つ物件であっても、それが判明していれば対策を取ることができるため、安く土地が手に入るというメリットを得られます。
売却の注意点
これまで見てきたように、被災物件に対する調査や説明は義務として現状の法で定められている以上に、世間一般の関心によって求められるケースが多々あります。
説明が不十分である場合や間違った説明を行った場合には賠償を求められるケースもあり、売主はより慎重な調査と現状の把握が必要となります。
調査にかかる時間を考え、売却を考える際には、極力早めに動くことも肝要です。
また、売主・買主双方で、被災物件の情報を共有し互いに納得することが大切です。
その土地は現在どういった状況なのか、利用するためにはどのような費用がかかるのか、濃やかに認識をすり合わせ、その旨を明記した契約を交わすことでトラブルを防ぐことができます。