2021/12/09
不動産の相続で揉めている
ご家族のご不幸に伴って思いがけないタイミングで不動産を相続することがあります。思い出の残る住まいや土地を手放すのは躊躇うものですが、相続する不動産が遠方にあったり、相続税の支払いが負担であれば売却することも選択肢の一つです。
相続した不動産を売却するケースには次のようなものが挙げられます。
1.相続した不動産を有効活用できないので売却したい
親が所有していた不動産を相続することになっても、同居していない場合は管理が難しく、更に保有している間は固定資産税が課せられるため、処分を考える方も多くいます。
固定資産税は土地・家屋・有形償却資産が対象です。税率は都道府県及び、各市町村で設定することが可能で、標準税率は1.4%です。
但し、土地の場合は30万円未満、家屋の場合は20万円未満で非課税となります。
土地と家屋が課税対象になるので、家屋を取り壊すと建物に対する固定資産税が無くなり安くなるかと思われている方もいらっしゃいますが、これは誤りです。
建物を取り壊すことにより土地が住宅用地と見なされなくなり、土地の固定資産税が6倍になります。そのため、固定資産税が払えなくなったという話もありますので注意が必要です。
相続不動産を活用できる目途が無く、固定資産税が負担になるのであれば思い切って売却してしまうのも一つの方法です。
2.相続財産を相続人で均等に分配するために現金化したい
不動産は現金等とは異なり分割が難しいため、相続が発生した時の分割方法は主に4つあります。
1つ目は現物分割といい、土地を分筆して完全に分けるなど、不動産を物理的に分ける方法です。
2つ目は共有分割といい、それぞれに持分を決め不動産自体は共有する方法です。
3つ目は代償分割といい、まず相続人の一人が不動産を相続し、他の相続人に相続すべき不動産の持ち分の相当額を金銭で支払う方法です。
この3つは相続した不動産を持ち続ける場合に取る方法ですが、これらの方法がいずれも難しい場合、4つ目の方法として換価分割があります。
これは相続した不動産を売却し、その代金を相続人で分配します。相続分通り明確に分配できるため、一般に公平でトラブルになりにくい方法だといわれています。
3.相続税の支払いが負担になるため、不動産を売却したい
相続税は動産・不動産を相続した個人に課せられる税金です。
相続税の対象となる不動産の価格は、相続税評価額を基に計算します。
5000万円+(1000万円×法定相続人数)の基礎控除があり、これを超えた相続に相続税が発生します。
例えば、夫が亡くなり、妻と子2人が相続人だとします。
この場合、基礎控除額は(1,000万円×3) 5,000万円で8,000万円になります。8,000万円以下であれば課税されません。
このように基礎控除額があるので、実際に相続税の申告をする必要のある人の割合は4~5%と言われています。
相続税額は正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた残りの額を民法で定められた法定相続人で案分し、この額に税率を乗じることで算出します。
つまり各人が相続などで実際に取得した財産に直接税率を掛けるものではないため注意が必要です。税率は法定相続分の額により10%~50%になります。
相続不動産売却時の注意点
相続不動産の売却は相続人本人でなければできないため、まず誰が所有者かを決め、不動産名義変更手続きを行う必要があります。
売却すれば不動産の購入者に名義が変更になるのだから、わざわざ相続人へ名義変更をする必要がないのでは、と思う方もいらっしゃいます。
しかし法律上、相続による名義変更の手続きを省略することはできません。
相続する人が確定していなければ、相続人全員の共有財産となります。
共有名義にして売却することも可能ですが、この場合、売却手続きに相続人全員が関与しなければなりません。
手続きができる特定の相続人を1人選ぶことを検討しましょう。
その場合は、選ばれた相続人のみが売却手続きに関与することになります。
次に、売却後の注意点です。
相続した不動産を売却した場合、「譲渡所得」が所得税や住民税の課税対象となる可能性があります。
譲渡所得は、不動産の売却金額から取得費・譲渡費用を差し引いて計算します。
なお、この譲渡所得は売却して利益が出た場合のみ課税されるもので、損失が出た場合は非課税となります。
課税譲渡所得金額と税額は以下のように計算します。
課税譲渡所得金額 = 譲渡価額 - (取得費+譲渡費用) - 特別控除
税額 = 課税譲渡所得金額 × 税率
「取得費」
不動産を購入時の購入代金や購入手数料など、不動産の取得に要した金額に、購入後支出した改良費・設備費を加えた合計の金額です。
不動産の取得費が不明であったり、実際の取得費が譲渡価格の5%よりも少ない場合は、譲渡価格の5%を取得費とすることができます。
「譲渡費用」
不動産を売却するために支出した費用です。仲介手数料・測量費・売買契約書の印紙代や、建物を取り壊して土地を売るときの取り壊し費用などを指します。
「特別控除」
居住用不動産を売却した場合は、3,000万円の特別控除の特例があります。
譲渡所得の税率は、所有期間によって「長期譲渡所得」と「短期譲渡所得」の二つに分けられます。
相続で取得した場合は、被相続人が死亡した日からではなく、被相続人が不動産を取得した時期から計算されます。
長期譲渡(所有期間が5年を超えるもの):20%(所得税15%、住民税5%)
短期譲渡(所有期間が5年以下のもの):39%(所得税30%、住民税9%)
相続不動産を売却する際は、どのような税金が発生するのか把握しておく必要があります。
売却事例
Eさんはお父さんが亡くなってから、相続に関してトラブルを抱えていました。
Eさんは妹さん(長女)と弟さん(次男)の三人兄妹の長男です。
Eさんのお父さんは、生前、「長女一人に不動産(自宅及び土地)を相続させる」という内容で遺言を残していました。
お父さんには預貯金などの金融資産はほとんどなく、遺産はこの不動産(現金に換算すると約6,000万円)がすべてです。
早くに奥さんと離婚したお父さんの身の回りの世話をしていたのは、この自宅に同居していた長女夫婦でした。
Eさんからご相談を受けたとき、長女夫婦は相続の対象となる自宅に住んでいて、「今まで父親の世話をしてきたし、ここで生活している。自宅を相続するのは当然だ」と、主張していました。
遺言の内容に納得がいかないEさんと次男が遺留分を請求したため、この不動産をめぐって兄妹間で相続問題が生じることになってしまいました。
Eさんと次男の法定相続分は3分の1ですが、今回、遺言状に従い長女が不動産を相続すると、Eさんは何も相続しないことになってしまいます。
この場合、Eさんや次男には遺留分減殺請求の権利があります。
お父さんの直系卑属(被相続人の子や孫)にあたるEさんたち兄妹全体の遺留分は遺産の2分の1です。この額をさらに法定相続分で分けたものがEさんの遺留分です。
今回は兄妹が3人いるため
Eさんの遺留分額 = 遺産 × 全体の遺留分割合(1/2) × 法定相続分割合(1/3)
となります。従って、この場合のEさんは1,000万円の遺留分を長女に請求することができます。
今回は商社に勤めるサラリーマンEさんからのご相談事例です。
このようなケースで当社が心掛けることは「親族間のトラブルをこれ以上大きくしない」ことと「トラブルを長引かせない」ことの2点です。
実際にEさんだけではなく、長女や次男とも個別に何度も面談を行い、当社の顧問弁護士を介し、Eさんと次男の遺留分減殺請求権や、この権利を行使した場合の遺留分額について詳しくお話ししました。
その結果、3兄妹には遺留分の仕組みをご理解いただき、遺留分減殺請求権を行使した相続を行うことになりました。
しかし、長女にはEさんと次男の遺留分額2,000万円を支払うほどの現金を持ち合わせていません。
そのため、この不動産を売ることで、遺産を現金化し、相続を実現することにしました。
なるべく早くこの問題を解決したいという3人の希望を汲んで、今回は当社でこの不動産を買い取りすることにしました。